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AI

AIの使い道は、大きく二つに分かれます。速くすることと、まだ立ち上がっていないものを立ち上げること。後者に賭けています。

効率化か、創発か

AIが入って、多くの仕事が速くなりました。議事録も、資料も、論点の整理も。すでに答えのあるものについては、これ以上ない道具です。

けれど組織の難題は、たいてい答えのない側にあります。何を選ぶべきか分からない。立場によって見えているものが違う。総論では賛成なのに、各論になると動かない。

こうした場面で必要なのは、速く答えを出すことではありません。まだ誰も言葉にしていないものを、一緒に立ち上げること。AIをそちらに使えないか——それが、このプロジェクトの出発点です。

AIが場に入ると、関係性が外に出る

対話の場にAIを入れてみると、予想していなかったことが起きました。

これまで、優れたファシリテーターが担っていたのは、話題の整理だけではありませんでした。誰が誰と緊張しているか。あの人はまだ言い切れていない。この場の重力はどこへ向かっているか。そうした「場の裏側」を読むことが、仕事の核心にありました。

AIが入ると、そこが変わります。「誰が言ったか」を持たないAIは、全員の意見を等価に扱います。声の大きい人も小さい人も、同じ重みで処理される。場の力関係が、静かに平らになっていきます。

これは入り口としても効きます。「組織開発をします」と言うと、「自分たちが開発されるのか」と身構えられることがあります。けれど「AIでみんなの意見がちゃんと聞かれるようにします」なら、すっと受け入れられる。そして気づけば、いつもは届かなかった声が場に行き交っています。

滑らかな場ほど、言い残しが飲み込まれる

ただし、ここに落とし穴があります。

AIが整理すればするほど、合意は速く、滑らかになります。そして滑らかな場では、「まだ言えていないこと」が浮かびにくくなります。全員が「これでいいよね」と納得しかけたところで、本当はまだ誰も腹落ちしていない、ということが起こります。

ある実践者から聞いた話が象徴的でした。AIが出した案に全員が固まりかけたとき、その人はあえて逆の意見を投げ込んだそうです。「綺麗事すぎて、具体性に欠けていませんか。本当にできますか」と。すると場の空気が変わり、普段は発言しない人が口を開いたといいます。

滑らかに流れていたから、あえてざわつかせた。ここに、人の仕事が残ります。

人に残る、四つの仕事

AIが整理を引き受けるほど、人がやることは減るのではなく、輪郭がはっきりしてきます。いま四つに整理しています。

ひとつは、入力を整えること。声にならない声を拾い、「それは、こういうことですか」と、言葉になる手前を手伝います。

ふたつめは、波紋を投じること。場が安易に固まりかけたとき、あえて逆の問いを差し込みます。

みっつめは、安心をつくること。「反対を言ってもいい」という空気は、人がつくるしかありません。

よっつめは、感情にふれること。「いま、何を感じていますか」を扱い、揺れや痛みのそばに居ます。

どれも、整理や集計とはまったく別の仕事です。AIに渡せるのは頭を使う面倒さのほうで、変わることに伴う痛みは渡せません。

対話の場に生まれる二種類の摩擦。認知的な摩擦はAIに渡せるが、関係的な摩擦は人にしか引き受けられない。

現在地

このプロジェクトは、田原真人氏との協働で進めています。物理学と複雑系の研究を30年、対話型組織開発の実践を20年、そしてAI・大規模言語モデルの実装。この三つがひとりのなかでつながっている方です。

まだ名前のない実践であり、現在進行形の取り組みです。企業の現場で試し、うまくいかなかったところを持ち帰り、また組み直しています。

位相は、確かに変わりつつあります。けれどその真ん中で、揺れて、納得して、最後の一歩を決めるのは、やはり人です。AIが多くを引き受けてくれるからこそ、人にしかできないことに、もっと深く向き合えると考えています。